人工知能学会編集委員会では平成14年度当初より人工知能学会らしい論文とは何か、
研究活動や学会活動を刺激し、学会の活性化に貢献するために何が出来るかということを検討して来ました。
その結論の一つが、AIフロンティア論文という新しいタイプの論文のための特別枠の設置です。
これは以下の趣意書にありますように、
現行の論文査読制度では扱えないような新しいタイプの論文を推奨し、
受け付ける事によって人工知能学会らしい、生き生きとした研究活動を促進しようと言うものです。
趣旨をご理解いただき、奮ってご投稿下さいますようご案内申し上げます。
投稿方法は従来の論文と同様ですが、AIフロンティア論文であることを明記してください。
http://www.ai-gakkai.or.jp/jsai/#PUBLISH
AIフロンティア論文の設立の趣旨
本会論文誌は我が国における人工知能研究の成果発表の場, および研究交流の場を提供し,学問と技術の発展に貢献してきた。 今後更に人工知能研究の牽引役として社会に貢献するために設立15年をすぎた今, 人工知能研究の原点に返って人工知能論文と言うものが持つ性質を吟味して, 必要であれば新たな論文評価基準のようなものを設定することは意義あることであると考える。 評価基準は直接的には掲載される論文のタイプと質に大きく影響するが, 影響する範囲はそれだけではない。学会としてどのような論文を求めるかを明示することは, 最終的には会員の研究活動にも影響を与えるからである.その意味で, 評価基準は不必要に狭いものであってはならないし, かといって論文としての品格は明確に必要条件として要請されていなければならない。 評価基準の再検討は,とりもなおさず人工知能研究のあるべき姿の再考を意味する。具体的な論文審査方法は以下の通りである。
人工知能研究の特徴はこれまでの研究の軌跡を見れば分かるように,変化の少ない一部の普遍的課題を除けば, 人間の知的能力に関する新しい研究課題を次から次に生み出すことにある。 実際,これまで多くの研究課題が生まれ,そして成熟すると共に人工知能学会から独立した独自の国際会議の設立を経て, 最終的には学会の設立へと結実している。 パターン認識,知識表現,自然言語処理,機械翻訳,エキスパートシステム,エージェント, 知識発見,事例ベース推論,などなど,枚挙にいとまがない。 このダイナミズムは人工知能研究の命と言え,それを大切にしたいと考える。
ところが,学問分野がある程度確立され成熟してくると,厳密な定式化, そして信頼性のある評価実験による有用性の検証などを備えた完成度の高い論文が要求されるようになる。 これは学問の自然な発展の傾向であると言えるが,人工知能研究そのものが持つ cutting edge 的性質にはそぐわない性質であるとも言える。 上述のような人工知能研究の分野を開拓してきた先端的研究は,論文に対する上述の様な成熟分野の基準では判断できないと思われる。 例えば,Minsky の Frame 理論の論文,Pereira の Prolog の提案の論文, Symbolics 社の Lisp マシンの OS とプログラム開発環境,Lenat の Cyc,また, 我が国に目を転ずれば,一般フレーム問題,ロボカップの提案,EDR開発,日本語語彙体系の開発, 形態素解析ツールJumanおよび茶筅,NEMACS,Java ベースの CORBA 準拠ツール HORBなど, 多くの研究・システム・ツールは学問と技術の進展に大きな貢献をした成果であるが, そのいずれも、発表時点においては、成熟分野の基準では評価することの難しい仕事であったといえよう。 Frame 理論,Prolog,一般フレーム問題,ロボカップなどは提案時点においては実証が不十分であっても「意義ある提案」と言える概念や方式の提案, あるいは問題提起であり,Cyc, EDR,日本語語彙体系などは知的システムを根底から支えるインフラ開発を指向するもので, そのために膨大な努力がなされているが,その有用性が目に見えるようになるまでは時間がかかる。 また,Lisp マシンの環境,茶筅,NEMACS,HORB などは分かる人にはその価値は理解できるが, 開発された時点では成熟分野の評価基準をあてはめるのは難しいという性格を持っている。
AIフロンティア論文特別枠はこのような論文を進んで採録することを目的としている。 これらの研究を評価するとすれば,「面白い」「凄い」「巧い」という定性的,かつ主観の入ったものにならざるを得ない。 しかし,それらは評価者の「見識」に裏打ちされるべきものであって, 評価者の見識がある程度保証されるときその判断は意義のあるものとなる。 従来から人工知能学会はそのような判断も尊重する学会であったが、 あえてそれを明示化する仕組みを作ることは重要であると考える。 世の中の多くの研究評価が項目ごとの点数のプラスとマイナスの差でなされるのに対して、 1点でも特に光る点があればそれを重視できるような研究評価制度を作る先導的役割を人工知能学会が担いたいと考えるのである。 この論文審査方式は,編集委員会メンバーが変わると採録される論文に影響がでる, 評価の客観性に欠ける,などの問題を本質的に含んでいることは否定できない。 編集委員会としてはこの批判は以下の理由により,あえて甘んじて受けたいと考えている。 従来通りの評価基準ではこのような論文の採録が難しく,今後のAI研究の更なる発展を考えれば, 新鮮な発想による新しい概念や方式の提案,斬新なアイデアに基づいて, 美しく実現されたツール,膨大な労力を要するインフラ整備などの従来基準では評価が難しい研究を促進し, 若い研究者の研究意欲を鼓舞することによる貢献の大きさは,その欠点を補って余りあると考えるからである。 以下で述べるAIフロンティア論文評価法の本質である「加点法」に習って,本提案がもたらすであろう良い点を評価して頂きたい。
言うまでもないことであるが,このような cutting edge 研究だけが人工知能論文であることを主張するものではない。 従来の客観性を重んじる完成度の高い論文を追求することは学会として当然必要であると考える。 本提案の趣旨は,それに加えて上述のような,面白い,凄い, 巧い研究成果を論文として認める新しいタイプの論文枠を設けることの必要性を主張することにある。 AIフロンティア論文枠を設定することにより,本学会がこれまで以上に人工知能研究の進展, そして,日本発の新しい研究成果を世界に問うことができることに貢献することを目的としている。
従来の論文誌評価基準とは別枠の論文「AIフロンティア論文」枠を新たに設け、 編集委員会の見識に基づき編集委員会が直接査読して採否を決定する。 論文のタイプとしては以下の3つを想定する。