【講演概要】

表現プロセスの言語化は表現を進化させる

浦 智史, 諏訪 正樹
(中京大学 情報科学研究科メディア科学専攻)



表現とは内面的なものを言葉などの外的な形に表出する行為を指す。 しかし、外的な形にすることだけが重要なのではない。 例えば、ソムリエは味覚を言葉で表現することに長けているが、 味覚を感じられなければ言葉にはできない。言葉にする前に、 何かを見て何かを感じ解釈をつけるというプロセスも重要であると筆者は考えている。 「1.見る」、「2.意味をつけ解釈する」、「3.外的な形に表出する」 の総体が表現のプロセスだと考えている。 1,2は表現者が表現する前に経験を増幅させるプロセスであり、 それが表現行為に大きく関わる。 表現の方法論を探求するためには表現者の経験増幅プロセスを研究の的にしなければならない。 本研究の目的は、経験増幅プロセスの言語化により表現がどのように変化を遂げるかを実践的に探求することにある。
表現のプロセスを探求するため、風景を表現する「表現活動」を行う。 被験者は筆者自身である。表現のプロセスの多くが内面的なものであり、 他者の結果を外から観察するだけでは分析できないと考えたためである。 表現活動では次のことを行う。 これは表現者が自らの経験を増幅するプロセスに相当する。 7ヶ月間活動を行い、25回分のデータが得られた。本研究では (b)のメモで得られた言語データから、 どのように表現が変化してきたかを分析する。
言語量の変化を見るために1回ごとのメモの文章量をカウントした。 その結果、後半にかけて文章量の増加が見られた。次に、 それぞれの文が五感のうちのどの感覚を基として表現されたのか分析を行った。 後半にかけて『聴覚』『触覚』『嗅覚』を基とした表現の増加が見られた。 文章量の増加は、『視覚』だけではなく、 様々な感覚で風景を捉え表現できるようになったことに起因すると考えられる。 これが先に述べた「表現のプロセス1,2」における表現者の経験増幅プロセスであると考える。 経験増幅プロセスの結果として表現できる言葉の量が増加したと解釈する。 自分の体と環境にどのような関係を結べるかが表現において重要であると言えるのではないだろうか。