仲本 康一郎 (独立行政法人 情報通信研究機構)
われわれの生きる環境に永遠に変化しない事物や生物は存在しない. ある時点における存在物は常に変化の途上にある (佐伯1978). 本稿は,生態心理学の実在論を導入し, 形容詞に代表される表現が従来の意味論にあるような事物の恒常的な性質や一時的な状態を表わすだけでなく, ある変化する事象の一局面として解釈されることを主張する. 具体的には,事態の進展を表わす形容詞の意味論 や「もう」や「まだ」 に代表される局面副詞の意味を分析し, 未然相と既然相などの局面の概念を支える環境の意味論として痕跡と徴候といった生態学的事象があることを指摘する. また,局面解釈の理解の枠組みとしてフレーム意味論の観点から事象フレームという概念を提案する.