渡辺 光一 (関東学院大学経済学部経営学科)
現在のインターネットは、グーテンベルクによる聖書の印刷という歴史的事態を、 本質的には乗り越えていないといえよう。 プレーンテキスト・非同期・低コストというインターネットの特質は、 低コストにより「量が質に転化」しているとはいえ、 グーテンベルクによる印刷物の配布と、根本において同じである。 本質的に言えば、現在のインターネットでは、コンピュータは単なる蓄積伝送装置であり、 コミュニュケーションの制御とコンテンツの有機的形成とにコンピューティングな関与を果たしておらず、 人間ともインタラクションしていない。
筆者らは、入力、整理・蓄積、共有、活用、創造からなる情報・知識フローサイクルのモデルを考え、 組織における情報インフラと人材マネジメントの相互作用に関する実証分析を進めてきたが、 そこでは、現在のITの本質的な問題として、5つの因子を抽出している。 因子1は主として知識の整理・蓄積とその活用に関する不満、 因子2は形式知の持つ本質的限界に関する不満、 因子3は人間の情報処理能力の限界と現在のITではその支援ができないことへの不満 (活用上の不満)、因子4は現在のITでは暗黙知の表出化を支援できないことへの不満、 因子5は知識の共有に関する不満であると解釈できる。 しかし、XML、Java、Corba、IMT2000、VoiceXMLなどの商用的普及や、 OMGやFIPAやUDDIによる分散オブジェクトやエージェントの標準化推進、 W3CによるSemantic Web/RDFとのその周辺のオントロジー記述体系の検討など、 インタラクションをユビキタスでマルチモーダルな形で行うための技術基盤は、 コモディティとして利用され始めている。 それらが完全にコモディティになるわずか数年先には、 今回のインターネットブームと本質的に違うよりコンピューティングしたインタラクションの出現を促すだろう。 そこで見られるのは、新たなるCMC(Computer Mediated Communication、 コンピュータを媒介としたコミュニュケーション)が生み出す、 コンテンツとコミュニュケーションの脱構築ともいうべき、より創造的なインタラクションである。 そのための要素技術の1つを提案する。