【講演概要】

受け手の心に感情を喚起させる「言葉のデザイン」−−俳句の場合

岩垣 守彦



書き手が感情(形容詞・副詞)を表す言葉を読み手に押しつけるのではなく,読み 手の心に感情(形容詞・副詞)が喚起するように書き手が言葉を操作すると,創作と なる.たとえば,西脇順三郎の詩
あかまんまの咲いてゐる どろ道にふみ迷ふ 新しい神曲の初め
       (旅人かへらず 113)
に形容詞は含まれていない.名詞(事象)と名詞(事象)を重ね合わせて読み手の心 に形容詞を生み出すという技巧を使っている.その意味において,
 住みつかぬ旅のこころや置火鉢(芭蕉)
 秋の夜や旅の男の針仕事(一茶)
にも同じ技巧が用いられ,形容詞は含まれていない.
しかし,「あかまんま・・・」の詩を「俳句」とは言わず,上の二つの俳句を 「詩」とは言わない.俳句にはリズム(575)のほかに,日本の文化や日本語の特 質を生かした特別なルールがあるように思われる.俳句における言葉のデザインにつ いて考える