【講演概要】

意味的距離による不調和さの視覚誘発脳磁図反応に対する影響の検音討

○原田 暢善1、岩木 直1、 外池 光雄2
1: 産業技術総合研究所関西研究センター 人間福祉医工学部門
2: 千葉大学工学部メディカルシステム工学科



動物の首を取り替えを語彙の意味的距離で調整した動物線画の不調和さの視覚誘発脳磁図反応に対する影響について検討した。 世界のどの言語においても動植物分類を表す語彙が存在し、多くの非西欧言語においても西欧言語同様に、動植物の意味が階層性を示すことが民族生物学研究で報告されている。このような分類は、科学的分類とは似ている点はあっても別物である。意味的距離が階層間での距離として表された場合、文章の意味判断テストにおいて、主語部分とそれを説明する述語部分の意味的距離が離れれば離れるほど、判断の反応時間が長くなることが報告されている。本研究は、意味的距離が、視覚刺激の不調和さを通して視覚誘発脳磁図反応に対しどのような影響を与えるかについて検討を行った。 方法:動物の語彙の意味は、その語彙の意味的性質で階層性を持った分類形態として示すことが可能であると報告されている。語彙分類のデータとして、角川新類語辞典を用いた。本実験における意味的距離は、本類語辞典の各層間の意味的ネットワークのリンクの数として決定した。本類語辞典は、哺乳類を、5つのカテゴリーに分類している。動物の首は、このカテゴリー間での交換(Deviant, d=4)、カテゴリー内での交換(Middle, d=2)、そして首の交換を行わない(Normal, d=0)、以上3条件で実験を行った。Normal、MiddleそしてDeviantの三段階に不調和さを変化させた動物の線画によって引き起こされた、視覚誘発脳磁気図反応を観察した。左後頭領域の二乗平均波形のピークアンプチュードの検討を行った。実験後、各動物線画に対する、各被験者の不調和さの度合いの官能評価を行った。合計20人の被験者で実験を行った。
結果:左後頭領域の加算平均波形において潜時約170msおよび約220ms付近で明瞭なピークが確認された。左後頭領域の二乗平均波形のピークアンプチュードにおいて170ms成分(F(2/38)=4.92, p=0.013)および220ms成分(F(2/38)=5.23, p=0.0098)において、意味的距離の増加に伴い、統計的に有意に減少することが明らかになった。また、被験者の不調和さの官能評価のスコア-は、意味的距離の増加に伴い、有意に増加すること(F(2/38)=123.46, p=5.63E-37).が明らかになった。 考察:意味的距離で調節された視覚刺激の不調和さは、すなわち動物線画の形態的逸脱は、左後頭領域の潜時170msおよび220ms付近の活動の減少を引き起こすことが明らかになった。潜時170msおよび220ms成分の意味的距離に対する減少の傾きは、人間が映像から、動物の形の典型的な”プロトタイプ”の構造を抽出する能力を示すものだと考えられた。われわれは、その能力をプロトタイプ構造感受性(Structural Sensitivity for Prototype(SSP))と名づけたいと考えている。以上から、脳内での意味的作用を構成する機能の一部が、潜時170msおよび220ms成分の活動に発現されている可能性が示唆された。