【講演概要】

単語親密度の聴覚誘発脳磁図反応に対する影響の検討

○原田 暢善1、岩木 直1、中川 誠司1、 天野 成昭2、外池 光雄1
1: 産業技術総合研究所 関西研究センター 人間福祉医工学研究部門
2: NTTコミュニケーション科学基礎研究所 言語認知情報処理オープンラボ



単語親密度の聴覚誘発脳磁図反応に対する影響について検討を行った。 単語親密度で7.0-5.5、5.5-4.0、4.0-2.5、2.5-1.0 の4段階に分けた音声言語刺激を被験者に提示し、 刺激によって引き起こされる聴覚誘発脳磁図反応を観察した。 実験刺激条件として、3条件を用いた。
(1)最も単純な聴覚反応を得るためのコントロール条件として、100msの1kHzの純音刺激、
(2)言語音の長さを1/2の短縮した音声言語刺激、
(3)言語音の長さが通常の1/1の音声言語刺激、
の合計3種類の刺激条件を用い脳磁図反応の計測を行った。 聴覚誘発脳磁図反応で代表的な100ms潜時付近のN100m 成分が最大となるチャンネルを左右脳半球で観察した。 音声言語刺激1/2および1/1条件で左半球聴覚野付近のチャンネルで、 N100mに引き続いて、大きくなだらかに持続する成分が観察された。 右半球では観察されなかった。本成分の持続時間が、音声言語刺激1/1条件に対し1/2条件では、 約半分に短縮した。一方、コントロール条件の100msの1kHzの純音刺激条件では、 左右両半球とも、N100mに続くなだらかな成分は観察されなかった。 以上の結果から、N100m成分に続く大きくなだらかな成分は、言語刺激に関連する複合成分 (Word Relating Complex: WRC)であると判断された。 音声言語刺激1/2条件で、親密度の増加とともに、 WRCのピークアンプリチュードが有意に減少(F(3/27)=9.44, p=0.000195)、 および最大アンプリチュードの50%をクロッシングする潜時が有意に早くなる (F(F3/27)=11.71, p=0.0000427)事が明らかになった。 先行研究で、聴覚刺激間隔の1/fnゆらぎのべき乗nの値を増加させ、 刺激間隔の規則性を増加させると、 N100m成分のアンプリチュードおよびピーク潜時が減少することが報告されている。 この場合、刺激間隔の規則性が増加すると、 刺激に対する「予測」に対応するメモリートレースの形成が亢進され、 結果として情報処理の効率化から、 反応の減少および潜時が早くなる現象が引き起こされたと考えられている。 以上の結果から単語親密度の影響について考察すると、単語親密度が高くなるに従って、 音に対する記憶強度が大きいため、結果として音に対する予測が成立し、 反応の強度の減少および潜時が早く成る結果が引き起こされたと考えられる。 ここで、従来の刺激の到来に対するメモリートレースの形成を短期メモリートレース (Sort Term Memory Trace)、 実生活の中の言語環境の中で言語音に対して形成されるメモリートレースを長期メモリートレース(Long Term Memory Trace)と名づけたい。