原田 暢善 (千葉大学フロンティア医工学センター)
刺激の変化の認知において、刺激の変化自体の知覚および事前に提示された刺激 (短期・長期) との照合・統合 (検索) の2つの過程が存在すると考えられる。 刺激の変化自体の知覚に焦点を当てた指標として顕著性、および、事前の刺激との参照・統合(検索)に焦点を当てた指標とし て構造感受性がある。顕著性は、“感覚刺激が刺激の時間的または空間的配置によってボトムア ップ性注意を誘因する特性”(Ann Triesman, et al., 1980)を差し、“刺激の目だつ度合い(注目度)” を差す指標と考えられている。一方、構造感受性は、提示される刺激の中の規則性および構造性 を抽出する機能(Harada et al, 2005)、すなわち、提示される刺激を事前に提示された刺激(短期記 憶および長期記憶)と統合および照合する機能を反映する指標であると考えられる。 J サンタヤナ(1890)が提唱した環境の分類法で、形式的環境および象徴的環境への分類府が ある。形式的環境は、物理量に還元できる環境指標で、強度、密度、および規則性などの環境要 因が該当する。一方、象徴的環境要因は、象徴性を有し、物理量に還元できない環境要因が対 象となる。これら、形式的環境および象徴的環境、さらに、環境中の物語の成り立ちの基盤となる 物語形成環境において、顕著性および構造感受性がどのような形で機能を実現しているかに関し て検討を行いたいと考えている。 顕著性および構造感受性の機能実現の検討を、自閉症スペクトラム(ASD)者と健常者と比較 する形で実施したいと考えている。ASD 者は、感覚神経過程における外部環境の把握および社 会的認知の形成において、健常者の機能と比較して差異があることが報告されている。形式的環 境、象徴的環境および物語形成環境が、ASD 者と健常者に対して、受け取られ方がどのように異 なっているかの検討を通して、顕著性および構造感受性がどのように実現しているかの関しての 検討を行いたいと考えている。 さらに、形式的環境、象徴的環境、物語形成環境における顕著性および構造感受性の機能が、 社会的スキーマの形成において、どのような形で機能するかに関して検討を行う。ASD 者の社会 的スキーマの健常者との差異の形成に置いて、環境における顕著性および構造感受性がどのよ うな形で作用しているかに関して検討を行う。 さらに、社会的スキーマの事例検証としてアイヌの社会維持の3 原則に関して検討を行いたい と考えている。アイヌの社会維持の3 原則である、贈与交換、平等原理、有縁が社会的スキーマ 形成および物語形成環境の維持においてどのように機能しているかに関して検討を行う。