青柳 悦子 (筑波大学 人文社会科学研究科)
物語テクストにおける文章の編成の仕方には、 言語ごとあるいは文化圏ごとに暗黙のルールが存在することは知られている。 本稿では、日本語、英語、フランス語の物語文の基本的ルールを確認し、 とくに日本語物語文に顕著なタクシス(相関配置)的傾向と複眼的世界認識のあり方に着目する。 さらに、英語・フランス語で執筆する“越境的な”現代作家たち(ラヒリ、ヤヒヤ)に、 旧来の英・仏語物語文の慣習を破る、タクシス的で複眼的な世界認識・ 世界構築の可能性を探求する姿勢を観てとる。 欧米言語の物語文をもっぱら標準とした物語言語理論から、 いわば日本語的な感性を分析理論の枠組みに導入する試みとしたい。