【講演概要】

日常会話の「ことば」における多数の「含み」
―ASD特性から見えてくる日常会話と物語の相違― (OL)

青木 慎一郎 (岩手県立大学 名誉教授)



本論では、 日常会話と物語の相違について検討する。 それは、ナラトロジーにおいても取り上げられているが、 過去をどう扱うのか等の時間についての検討が主であるようだ。 それは、当然ながら「物語」の検討の方が主なテーマであることからくるものと思われる。 本論では、日常会話の方を検討するために物語 (演劇や手記の他に小説やコミック、アニメ等) との相違について、 ASD特性の方達が感じている日常会話の困難にもとづいて検討した。 ASD特性の方は日常会話には困難を感じている一方で上記の諸物語を好む傾向がある。 それに着目し、一般的な日常会話における「意味・解釈」ではなく、 「構造・生成」の検討を行う。「構造・生成」というのは動的なプロセスの分析である。 日常会話においては「具体的な感覚情報」と「抽象的な会話の筋」との「往復運動」 という動的プロセスが瞬時に必要である。 この「往復運動」を検討するため、「暗黙のただし書き」 としてすでに取り上げていた日常会話が進むきっかけについての議論を深める。 そのため、ポール・グライス (Grice,H.P.) の「会話の含み」を取り上げる。 その際、日常会話において瞬時の「往復運動」が要求されるのは、 この「含み」が同時に多数可能であるためだという点を強調しておきたい。