工学研究の評価の在り方について


「工学研究・評価研究連絡委員会報告」


平成11年3月31日

日本学術会議
工学研究・評価研究連絡委員会


 この報告は、第17期日本学術会議工学研究・評価研究連絡委員会の審議結果を取りまとめ発表するものである。

[工学研究・評価研究連絡委員会]

  委員長 末 松 安 晴 (日本学術会議第5部会員、高知工科大学長)

  委 員 井 口 雅 一 (日本学術会議第5部会員、日本自動車研究所長)

武 田 康 嗣 (株式会社日立製作所 専務取締役)

長 尾   眞 (京都大学総長)

増 本   健 (日本学術会議第5部会員、財団法人電気磁気材料研究所長)

[工学研究・評価研究連絡委員会 工学研究・評価小委員会]

  委員長 井 口 雅 一 (日本学術会議第5部会員、日本自動車研究所長)

  委 員 荒 井 滋 久 (東京工業大学量子効果エレクトロニクス研究センター教授)

磯 部 雅 彦 (東京大学大学院工学研究科教授)

岸   輝 雄 (日本学術会議第5部会員、工業技術院産業技術融合領域研究所長)

末 松 安 晴 (日本学術会議第5部会員、高知工科大学長)

千 葉 優 明 (株式会社日立製作所 研究開発推進本部技術管理センター長)

古 田 勝 久 (日本学術会議第5部会員、東京工業大学大学院情報理工学研究科教授)


「工学研究の評価の在り方について」

―日本学術会議対外報告の概要―

  1. 要旨: 工学は社会と密接に連携している学術分野であるので、工学研究の評価も多面的な視点から行われる。評価結果は社会に開示され、意見の反映が行われる必要がある。

1-1. 工学研究の評価の基本的考え方

(1) 工学研究の目的と意義

 工学研究は知的価値、社会的価値、そして経済的価値の創造を行うことを目的としている。そのため、研究には産官学民の連携が不可避である。また、研究を通して有意な人材を育成する役割も担っている。

(2) 工学研究の評価の目的とここで行う評価の対象

 工学研究の評価の目的は、工学研究成果の受益者である社会に先行して評価を行い、社会への説明責任を果たすとともに、創造性に富んだ研究が効率的に行われるようにすることにある。

 ここで評価の対象としているのは公的資金によって行われる研究で、主としてグループ研究を対象としている。

(3) 工学研究評価の視点

 研究内容に対応して、研究の成果が社会に与える影響や効果を含め、多面的に評価する必要がある。産官学民が連携して行う工学研究では研究が多岐にわたるので、それが適切に行われるよう、また社会的規範を逸脱する危険を避けるようにしなければならない。さらに、評価結果に反論できる評価体制にする必要がある。そして、人材育成も重要な視点である。

(4) 機関評価の視点

 研究機関設立の目的に適合した評価が必要である。研究成果のみならず、管理・運営・支援・責任体制、他機関との協力なども評価の視点とする。

1-2. 工学研究の評価の在り方

(1) 評価の方法と時期

 評価は、研究目的、規模、種類、段階、時期に応じた適切な方法と基準で行い、評価方法を開示する必要がある。評価の時期により、事前評価、中間評価、最終評価、追跡評価があげられる。

(2) 評価体制

 適切な評価者の人選が肝要である。また、外部や異分野の評価者を加えるなど、評価の視点に対応した人選をする必要がある。評価者には公正無私と守秘義務が課せられる。そして、評価者が自由な評価が行えるように環境整備をしなければならない。一方では、評価システム全般の透明性を高めるとともに、円滑な運営のための支援体制を整備し、評価方法の研究も行う必要がある。

(3) 評価結果の社会への発信と意見聴取

 評価の結果を開示・公開するのみでなく、社会からの意見を聴取することも重要である。また、広く社会で理解されるように分かり易い説明をするなど、特段の配慮が必要である。

2.検討の経緯: 日本学術会議の工学研究・評価研究連絡委員会は、平成9年12月16日から平成10年12月1日までの間に6回開催された。井口雅一第5部会員を委員長とした工学研究・評価小委員会を発足させて、工学という学問分野の特徴、工学研究の在り方やその評価の在り方について活発な議論を行うと共に、工学研究・評価研究連絡委員会との合同の会議を経て報告書がまとめられた。


「工学研究の評価の在り方について」 目次

T.はじめに

U.工学研究の評価の基本的考え方

  1. 工学研究の目的と意義
  2. 工学研究の評価の目的とここで行う評価の対象
  3. 工学研究評価の視点
  4. 機関評価の視点

V.工学研究の評価の在り方

  1. 評価の方法と時期
  2. 評価体制
  3. 評価結果の社会への発信と意見聴取




T.はじめに

 「科学技術基本法」の成立に伴って、平成87月には、我が国の科学技術振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進していくために、「科学技術基本計画」が策定された。ここでは、新産業の創出等の社会・経済ニーズに対応した研究開発の強力な推進や、基礎研究の積極的振興を図ると共に、新しい時代に向けて研究者の創造性の発揮に基礎を置いた新たな研究開発システムを構築することを目指している。

 この新たな研究開発システムを構築するに当たり、極めて重要なことは研究開発の適正な評価が行われることにあるとして、平成97月の科学技術会議の諮問答申を受けて、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」が平成98月に内閣総理大臣決定として策定された。

 学術研究全般に対する評価については、文部省学術審議会が以前より研究評価の重要性を指摘し、平成9129日に「学術研究における評価の在り方について」という建議をまとめている。この建議では、近年の学術研究水準の飛躍的向上への期待や、研究費が著しく高額化している背景があり、従来にも増して研究費の有効利用、研究機関の効果的な機能整備、さらに国民に対する説明責任の観点から評価の充実が要請されているとしている。

上述の学術審議会建議は、学術研究全般に対する評価の在り方をまとめたものであり、日本学術会議第5部では、この精神を引き継ぎ、工学研究に特有の背景や特徴に基づいて研究に対する評価の在り方をまとめることとなり、第17期限定の工学研究・評価研究連絡委員会を発足させた。同時に、工学研究・評価小委員会を組織し、平成91216日から平成10121日までの間に開催した6回の委員会の中で、小委員会とともに工学系研究の評価の在り方について審議を重ね、ここに報告書をとりまとめた。

工学研究の評価には、工学が社会との連携が不可欠な学問分野であることから、必然的に俯瞰的視点が必要である。また領域を超えた学術分野の開拓が行われるなどの特徴を踏まえて行われなければならない。以下に本文の要約を行う。


1.工学研究の評価の基本的考え方

1-1.工学研究の目的と意義

 「工学」は、人間の活動を助ける機能に関わる学術大系である。そのために、工学研究は知的価値、社会的価値、そして経済的価値を高める知識の創造を行うことを目的としている。したがって、工学研究は客観的な科学の基盤に加えて、人間・社会やその在り方からの要請などが包含されなければならず、そのために、俯瞰的研究や領域を超えた分野の開拓が必要であるとともに、産官学民の連携が不可避である。また、そうした研究を通して有意な人材の育成にも配慮されなければならない。

1-2.工学研究の評価の目的とここで行う評価の対象

 工学研究の評価は、その研究により創造された知識の知的価値、社会的価値、そして経済的価値の評価を行う。また研究内容の妥当性を確かめるとともに、知識の創造性を高めるのが目的である。
 ここで評価の対象としているのは公的資金によって行われる研究で、主としてグループ研究を対象としている。

1-3.工学研究評価の視点

 産官学民の連携が不可避な工学研究では、研究が多様化するので、それが適切に行われるよう、社会的規範を逸脱する危険を避けるようにしなければならない。また、研究の内容に従って、研究の成果が社会に与える影響や効果を含め、多面的に評価する必要がある。さらに、評価結果に反論できる評価体制にする必要がある。そして、人材育成も重要な視点である。

 個人研究の成果は、研究者個人が所属する機関が行う業績評価に反映されることになる。また、研究グループの評価や、プロジェクト毎に離合集散がなされ、協調と競争がおこなわれるグループ内の個々の研究者の評価にも特段の配慮をしなければならない。

1-4.機関評価の視点

 研究機関設立の目的に適合した評価が必要である。研究成果のみならず、管理・運営・支援・責任体制、他機関との協力なども評価の視点とする。


2.工学研究の評価の在り方

2-1.評価の方法と時期

 評価は、研究目的、規模、種類、段階、時期に応じた適切な方法と基準で行い、評価方法を明確化して開示する必要がある。評価の時期により、事前評価、中間評価、最終評価、追跡評価が挙げられる。

2-2.評価体制

 適切な評価者の人選が肝要であり、また、外部や異分野の評価者を加えるなど、評価の視点に対応させた人選が必要である。評価者には公正無私と守秘義務が課せられる。そして、評価者の自由な評価が行える環境整備をしなければならない。
 一方では、評価システム全般の透明性を高め、円滑な運営のための支援体制整備や評価方法の研究が必要である。また、研究成果の知的財産権の保護と管理を行う体制の整備をしなければならない。

2-3.評価結果の社会への発信と意見聴取

 評価の結果を開示・公開するのみでなく、社会からの意見を聴取することも重要である。また、評価結果を社会へ発信する上では、システムを整備するだけでなく、広く社会で理解されるような分かり易い説明をするなど、特段の配慮が必要である。



U.工学研究の評価の基本的考え方

1. 工学研究の目的と意義

 「工学」は、人間の活動を助ける機能に関わる学術大系である。そのために、工学研究は知的価値、社会的価値、そして経済的価値を高める知識の創造を行うことを目的としている。したがって、工学研究は客観的な科学の基盤に加えて、人間・社会やその在り方からの要請などが包含されなければならない。そのために俯瞰的研究や超領域の分野の開拓が必要であるとともに、産官学民の連携が不可避である。また、そうした研究を通して有意な人材の育成にも配慮されなければならない。

 すなわち、「工学」は、人間の活動を助ける機能を産み出し、それを広く普及させると共に、実際に運用することを目的とする学術大系である。単に学術として真実・真理を探究するばかりでなく、自然科学、人文科学、社会科学などの広い知識を活用して、社会・経済発展に寄与し、ひいては人類の福祉に貢献すること、すなわち、知的価値、社会的価値、経済的価値の創造を目的とする。

 工学研究では、時代的背景および社会的要請に応じて種々の条件の中で柔軟に対応することが要求される。自然科学などの理学的研究に比べて、より社会生活に密着した社会的価値および経済的価値に重点が置かれており、ニーズ対応の性格が強く実用化が望まれる研究が多いなどの特徴がある。その意味では、学術雑誌に掲載される成果のように、一刻も早い公開が望まれ、学界に貢献する成果だけではなく、特許、ソフトウエアを含む著作権等の知的財産権、国際的規格・基準(グローバルスタンダード)、ノウハウ、技能、作品(アート)およびシステム作りなどにも大きな価値が置かれている。それらは、必ずしも迅速に公開されなくとも、知的財産権のように、それを所有する団体、地域、および国の権益を守り、産業界ひいては社会に貢献するなど、自然科学の学術分野とは異なる性格を有している。

 このように工学研究の目的は、学術としての発展のみならず、新技術の創出、特許等知的財産権の形成、新産業基盤の構築から新産業の創出と国際競争力の向上など、我が国の社会生活基盤の強化と生活の向上、ひいては、環境問題やエネルギー問題等の社会的課題の解決や、これらを通じての政策形成への寄与と文化の発展への貢献にまで及ぶ。資源小国である我が国の将来は科学技術に立脚せざるを得ないという観点に立てば、産官学民連携による研究遂行は重要な意義を有しているといえる。工学研究の目的の一つに工学・産業基盤を担う人材の育成が挙げられるが、産官学民連携による研究活動を通して社会の要請を知り、知識を広げ、知的創造活動を体得することは、そのような人材教育の点で大変有効である。

 工学研究には、基盤的研究および萌芽研究などの創造研究、実用化研究や試作・開発などの展開・統合研究、試験研究、調査研究等があり、それぞれの研究にはそれぞれの役割がある。研究者個人の発想と研究意欲を源泉として自由に展開される個人研究もあれば、複数の研究者が協力し合って特定の課題に取り組む研究もある。また、明確なスケジュールのもとに組織として取り組む研究もあり、組織(研究機関)にもその目的・性格上から創造研究機関、展開・統合研究機関、試験研究機関等、多くの種類がある。産官学民共同研究として公的資金と民間資金を一体として工学研究を推進することも多い。

2. 工学研究の評価の目的とここで行う評価の対象

 工学研究の評価は、その研究により創造された知識の知的価値、社会的価値、そして経済的価値で評価を行って、知識の創造性を高め、また研究内容の妥当性を確かめるのが目的である。

ここで評価の対象としているのは公的資金によって行われる研究で、主としてグループ研究である。

 すなわち、工学研究の評価の目的は、知的価値・社会的価値・経済的価値の創造力を高め、創造活動を効率良く行うことにある。資金・人材・施設整備等の研究資源の効率利用を図ると共に、研究成果を明確化し、その受益者である社会に先行して評価を行うことにより社会に対する説明責任を果たすことを基本とする。特に、研究の活性化および効率化の観点に留意し、単に批判的な評価に陥ることのないように、研究遂行者(研究者および研究機関)を鼓舞・激励し、研究を成功に導くために助言あるいは誘導を行うことを評価の目的として視野に入れる。

 また、研究意義を確認し、研究遂行者の独創性を最大限に尊重しながら、研究遂行者が独善に陥らないような研究方針の変更や改善も目的とするほか、研究に対するアセスメントをも念頭に置く。特に研究を効率良く行なうための方法、体制は、他のプロジェクトの研究者にも有益な知見を与えるものと考えられる。研究成果の明確化のためには、成功した研究者を賞賛し、成果の一層の発展を図ると共に、不成功の場合にもその原因調査を行い、以降の研究に反映する方法、体制を構築する必要がある。

 工学研究は、学界のみならず産業界全体で様々な目的のもとに推進されるが、民間企業等における工学研究は、各企業等がそれぞれ目的とする事業遂行上、必要な研究を行うものであるから、そこでの工学研究の評価は、その企業や資金を負担した機関に委ねられるべきものである。国費あるいは公的資金による研究は、社会的要請が高くとも民間では行われにくい創造研究や、困難度が高くとも大きな成果が期待される研究に重点が置かれるべきである。ここでは、大学、国公立研究機関、および産学官共同研究プロジェクト等、公的な資金および公的資金と民間資金を一体として遂行される工学研究を評価の対象とする。

 研究者の自由な発想から展開される個人研究は、元来全ての研究の発端として成長することが期待されるものであるから、研究上の自由が最大限に認められるべきである。

3. 工学研究評価の視点

 産官学民の連携が不可避な工学研究では、研究が多様化するので、それが適切に行われるよう、社会的規範を逸脱する危険を避けるようにしなければならない。さらに、研究の内容に従って、研究の成果が社会に与える影響や効果を含め、多面的に評価する必要がある。他方では、評価結果に反論できる評価体制にする必要がある。そして、人材育成も重要な視点である。

 すなわち、工学研究は、その目的、方法、成果の点で多種多様であることを踏まえた視点で多面的評価を行うことが重要である。画一的な視点のみでは、工学研究の正確な評価はできない。研究の目的および内容・手法の提案に基づいて、その知的価値・社会的価値・経済的価値を十分に検討し、評価する必要がある。

 評価の時期に関して、事前評価では、研究提案に基づいて、その目的の社会的・経済的価値およびその内容・手法の知的価値を予測評価し、中間評価では目的に向けた研究の進展状況をチェックすると共に、目的・手段の修正の必要性を検討する。さらに、最終評価では、研究目的の達成状況を評価するとともに、研究成果の波及効果を検証する。

 知的価値という視点からの評価については、その基準として、当該研究の研究水準、独創性、発展性、他の研究分野・学問分野への貢献性などが考慮されるべきであるが、同時に研究資源(資金・人材・施設設備)の効率的利用が図られたか、研究は効率よく推進されたかを考えなければならない。

 社会的価値および経済的価値という視点からの評価については、公費による研究が社会への説明責任を負っていることを念頭に、社会的要請および産業発展への適合性を十分考慮すると共に、倫理の観点からも検討する必要がある。

 その基準としては、新技術の創出および特許、実用新案、意匠、ソフトウエアを含む著作権等の知的財産権の形成、およびその技術を社会に普及させることを積極的に推進する標準化への貢献など、当該研究の当初目的の達成度のみではなく、その研究から生まれた副産物や派生的研究成果の価値についても考慮する必要がある。

 また、経済的価値が薄くとも、生活環境や社会的環境を向上させる創造的な研究成果の価値についても特段の配慮が必要である。さらに、地球規模の課題の解決やアセスメント、政策形成への寄与、生活基盤の強化、新産業基盤の構築、ベンチャー企業の創出・育成等、人類・社会への貢献にも配慮することが適当である。

 次代を担う人材教育・人材養成への貢献も、特に大学等の機関における研究の評価には重要な視点である。研究者個々の研究活動のみならず、機関全体の中での研究活動と教育活動との有機的な関係、およびそのバランスの重要性に留意する必要がある。

 研究者個人の業績評価は所属研究機関で行われ、個人研究の成果も業績評価に反映されることになる。工学研究がグループで行われた場合、その成果を研究者個別の業績に反映させる方法、また、所属機関外で行われた工学研究に参加してあげた成果を個人の業績に反映させる方法も検討する必要がある。

4. 機関評価の視点

 研究機関設立の目的に適合した評価が必要である。研究成果のみならず、管理・運営・支援・責任体制なども評価の視点とする。

FONT size="3" color="#000000">すなわち、研究機関の評価においては、画一的な評価方法および評価内容を適用するのではなく、その機関の目指す方向・目的に鑑み、評価側および被評価側の十分な相互理解のもとに、適切な評価方法および評価内容を設定する必要がある。また、実際に研究機関の研究成果だけでなく、その研究目的を達成する上で重要な要素である管理・運営、研究組織と責任体制、および研究を円滑かつ効率的に推進するための研究機関における研究支援体制、さらには他機関との協力、連携についても評価の対象とする必要がある。



V.工学研究の評価の在り方

1.評価の方法と時期

 評価は、研究目的、規模、種類、段階、時期に応じた適切な方法と基準で行い、評価方法を明確化して開示する必要がある。評価の時期により、事前評価、中間評価、最終評価、追跡評価が挙げられる。

 すなわち、研究課題の評価においては、いかなる目的で、どのような種類・規模の研究対象を、誰が、どの段階・時期で、どのような方法・基準で行うかを明示して行うことが重要である。工学研究は、学問的分野だけでなく、萌芽的・創造的段階から展開・実用化段階および統合・転用段階にわたるまで、非常に広がりが大きいため、評価方法にも多面性を持たせる必要がある。

 研究者が達成した仕事や発表論文の質が大切である。他方で、研究者の論文の被引用回数、ソフトウエア等を含む著作権、特許などの知的所有権、そして作品などをはじめとする客観的データをもとに、多面的評価項目および評価尺度を設定した上での定量評価を行うと共に、このような比較が困難な項目の定性評価、および関連研究者・研究機関での相対評価も行うことが研究の活性化に重要である。また、工学研究の成果が社会的・経済的にどのような効果をもたらすかが特に社会では重視されており、この点に関する評価の在り方を研究する必要もあろう。評価が評価のみで終結するのではなく、成功・不成功原因の究明とその反映としての研究の活性化・推進に繋がるような評価方法ならびに評価が生かされる方策を構築する必要がある。

 なお、萌芽的研究や学際的研究など、その分野が未成熟であり、評価の根本となる評価者が十分育成されていない場合、あるいは選考された評価者によって判断が大きく異なる場合も工学研究には想定される。このような研究課題に対しては、評価を複数回行う方法等、特段の配慮が必要である。この類の研究は、その研究者が属する研究機関の長が、ある期間例外的に評価の対象から外すなどの配慮を行なうことも必要である。

 評価の時期としては、計画段階での事前評価、研究途中での中間評価、研究期間終了後の最終評価があげられるが、研究に関わるコスト(研究費規模)と評価に関わるコストを勘案して、その評価の効果が研究全体の活性化と改善に効力を発揮するような適切な時期と評価方法を選択する必要がある。大型の研究費を投じる研究プロジェクトほど厳正な評価を行うべきである。

 事前評価においては、研究目的、実行計画、研究遂行者の評価を行い、研究実施の可否を決定するだけでなく、研究計画の修正をも視野に入れてあたる必要がある。

 中間評価においては、成功に向けての鼓舞激励だけでなく、それを支援することが必要である一方、研究の方向転換を迫ることができる体制を整える必要がある。場合によっては、研究の中止も必要となると考えられるが、その場合には不成功原因を明確にする必要がある。

 研究期間終了後の最終評価においては、研究成果の成功・不成功を評価するだけでなく、成功した研究には十分な賞賛を与え、一層の発展を図ると共に、成功・不成功を問わず、その原因を究明して次代の研究計画に反映できる体制を構築することが必要である。工学の分野では、新産業の創生、新製品・新システムの完成、有効特許の成立と効果の普及など、それぞれの研究の成果が社会的・経済的効果をもたらし、世の中で認められる姿に至るまでに長い期間を要することが多い。また、その間に研究テーマや研究者の世代交代が行われることもしばしばである。したがって研究終了後、ある一定期間をおいて追跡評価を行うことが必要である。例えば、国際シンポジウムなどを開催して、当該研究分野における他の研究者からの評価を受けることも一方法である。これらの評価は、同一の評価者・評価機関でなく、それぞれの段階で異なる評価者・評価機関も加わり、それまでの段階での評価そのものも評価し、将来の評価の改善に役立てることも考えられる。

2.評価体

 適切な評価者の人選が肝要であり、また、外部や異分野の評価者を加えるなど、評価の視点に対応させた人選が必要である。評価者には公正無私と守秘義務が課せられる。そして、評価者の自由な評価が行える環境整備をしなければならない。

 一方では、評価システム全般の透明性を高め、円滑な運営のための支援体制整備や評価方法の研究が必要である。また、研究成果の知的財産権の保護と管理を行う体制の整備をしなければならない。

 すなわち、評価体制としては、評価者の選任方法、評価の目的、方法、基準、結果を明示・公表し、評価結果およびその評価者もまた評価を受けるなど、評価システム全般にわたる透明性を高めること、ならびに評価システムを円滑に運営するための支援体制の整備が必要である。

 研究評価は、最終的には評価者の主観に依存するところが大きくなると考えられるため、評価者を当該分野、関連分野、および異分野の専門家、ならびにその他の有識者の中から、評価の視点(知的価値・社会的価値・経済的価値)に対応させて選任することが重要である。評価者は、評価対象に関する守秘義務と個人情報の保護を遵守し、個人の良心に基づいて公平かつ厳正な立場で評価にあたる必要がある。また、評価者が良心に基づいて自由な評価を行うことができる環境を保つことも重要である。

 評価の不確実性を改善していくためには、評価の方法についても研究を進めることが必要である。すなわち、評価そのものを研究対象とし、適切な評価項目を打ち出す評価法の専門研究者を育成すると共に、それを支援する人材および経費の充実を図る必要がある。このような人材としては、適切な有識者を期限付きで専任の評価者に任命することも考えられる。

 評価を円滑に行うためには、信頼の置ける評価基準が必要になる。評価基準を作成するために、研究成果や実績に関する客観的データ、国際的研究動向、評価結果に関する種々の情報・データの収集、整理、分析、提供を行うなどの評価支援体制の整備が必要である。必要に応じて、学会等の外部機関に評価支援のための作業を委託することも考えられる。

 また、厳正な評価を行うことと並行して、特許権や著作権の維持等、研究成果から派生する知的財産権を適切に管理する体制を構築することが重要であると考える。

3.評価結果の社会への発信と意見聴取

 評価の結果を開示・公開するのみでなく、社会からの意見を聴取することも重要である。また、評価結果を社会へ発信する上では、システムを整備するだけでなく、広く社会で理解されるような分かり易い説明をするなど、特段の配慮が必要である。

 すなわち、評価の充実のためには、評価結果を被評価者へ開示して改善の方針を示すと共に、各種の場や手段を通じ社会へも積極的に公開して評価の透明性を高め、社会の理解と支持を得るだけでなく、社会からの意見を積極的に聴取することが重要である。ただし、研究者および評価者個人の情報の保護や、研究者および評価者を萎縮させないような特段の配慮がなされる必要がある。

 また、ある時点での評価結果を最終の評価と考えるのではなく、その後の研究の進展や研究成果について追跡したり、研究成果だけでなく、評価結果の評価についての情報も社会へ発信できるようシステムを整備することが大切である。これらの研究成果及び評価結果を、研究者をはじめとする専門家だけでなく、広く社会一般に理解してもらえるよう、分かり易い言葉で説明できるような情報の発信方法についても格別の配慮をする必要がある。

(以上)