人工知能学会全国大会パネル討論


トイワールドからの脱皮

--- 新しい時代の新しい実問題のための新しいAI ---


5 June 1998 updated

1998年 6月17日 17:50 〜 20:00

at 早稲田大学・国際会議場 1階 A会場

パネラ:

司会

当日は、 上記の方々をパネラとして、人工知能研究に於ける問題、特に、いかにして実問題を 解くか? を議論したいと思います。
概して、人工知能では、問題の簡単化のために、いわゆる、トイプロブレムを扱って きたと批判されています。

では、トイプロブレムを扱っているだけの状態からどうやって脱却するか?
それとも、トイプロブレムを扱っている状態でもいいから、 実問題をとにかく、解ければいいのか??
それとも、他の方法があるのか??

では、実問題を計算機で解く場合に、実問題はどのようにモデル化出来るか???

などの問題を中心に議論していきたいと思います。
パネラは、若手、ベテランなど、様々な年齢層、更に、企業、大学、研究所など 様々な立場から研究などにたずさわっている方々です。 自分の現在の状態、問題点等から人工知能研究はどの方向に向かうべきか 議論していただきます。
更に、会場の方々からもパネラの話に対しての活溌なご意見、批判などをお願い します。
恐らく、2時間程度のパネルだけでは答えは出るとは思いませんが、 この議論が発端となって人工知能研究の方向づけだけでも見えると面白いと思い ます。

パネラによる前議論

パネルに先だってパネラの方々で問題点の掘り出しなどの議論がなされています。
以下に、パネラの方々がメールで行なった前議論を載せます。
ここでは、従来のAIの問題点、これからのAIが向かうべき道の示唆などが議論 されています。
参考までにメールのやりとりで行なわれた議論からの抜粋(ほんの一部)を ここに載せますが、全ての記録は、postscript file を参照して下さい。 当日の議論もこれを前提の知識としてに行なわれるので、事前に 参照していただけると議論を理解しやすいと思います。

この絵をクリックすると メールでの前議論全てを掲載した postscript file が得られます (6/1 '98版; 5/25 版との差分は参考文献程度です)

企画者から:
... さて、研究を行っている環境は色々あると思いますが、 どのような方向(応用 -- 基礎 -- 飛躍 -- 着実)に進むとAI の発展になるかを焦点として議論を行ないたいと思います。

パネラ:

この問いはたぶん、どの方向も重要という月並みな結論 になってしまうのではないでしょうか。

......

それより,昔から問題になっている

実世界規模の問題 vs. トイワールド

の対比はどうでしょう?
どちらが良いかではなく,トイワールドの研究は実世界規模の知能につながる か? というのがテーマで,単に賛否ではなく,そのための条件とかを考えるの が重要だと思うのですが.

......

ただ、人工知能の基礎に特に興味がある研究者としては、この外界(世界)の 記述や自身(知能)の記述としてのモデルが、それぞれの研究分野でどうある べきか、という議論の方がエキサイトしますね。もちろん、その中でトイワールドvs 実世界の切り口の検討も必要になる。

......

広めに応用分野をとらえ、研究のテーマに加えていくことは、応用面に密 接した基礎研究のテーマの掘り出しでも幅が広がり、有用なのではないでしょ うか?

......

モデルと現実を完全に一致させるのは原理上不可能だと私も思い ますが、相反するのはモデルと現実ではなく現実と処理系の計算能力であって、 そのトレードオフを最適化あるいは準最適化するのがモデルの開拓でしょう。

......

問題は、必要だからと言って全てに目をつぶるのではなく、そ のような世界を構築する事によるメリット、必要性というものを常に意識する必要 があり、これが「トイワールドからの脱皮、成長」につながるという感じで しょうか。

......

AIの基礎研究というのは,モデル化という観点からすると 「いかに正確に人間のもつ知識を表現するモデル化手法を発展させるか」とい うことであり,応用研究としては,そのモデル化手法を用いて実世界を計算機 上で表現し問題解決を行うことだ

......

「人工知能」が人間のもつ知識すなわち「自然知能」の一部にど こまでもこだわる必要はないと思っています

......

何を内部に持ち,何に外部を使うかという問題設定自体は“モデルでやる”と いう方法論からは生まれない

......

「モデルというからには、いろいろ条件を変えて試行したり、試行的に構造を組み替え たり、という操作性があることが最低条件だと思います。」

......

人間の知能により高精度に簡略化された知識(ヒューリスティック)を モデルに反映し、複雑な計算や計算機ならではの知識と組み合わせたシステム もありなのではないでしょうか。

......

パネラのポジション

具体的なポジションは夫々の書いた position paper (postscript file) を見ていただく(下表で を クリックして下さい。尚、内容的には予稿集に含まれるものと同じです)として、 ここに示す表には、概要を示してあります。 これだけでも、一応、各人のポジションは判るかと思います。

パネラ ポジションの概要 file
中島 秀之 模型をどんどん複雑化することによって、実世界へ切れ目なしにつ なげることは、外界のモデルをすべて内蔵することを止めれば可能である。
従って、 複雑な世界でうまく行動するためには、世界そのものをモデルとして使うこと を考える必要がある。 そうすれば模型の世界で編み出した方法論を徐々に複雑な世界に広げることが 可能となる。
鷲尾 隆 実世界を表すモデルを創る には、切れ端でもいいから実世界の一部をモデル化すべく手法の拡張を図るべき である。したがって,対象を具体的な一部の分野に限ってもいいから。実問題に 対してこのような拡張の努力を続けることが、トイワールドから脱皮する近道で ある。
大澤 幸生 基礎研究か応用研究の片方だけやるのは、社会へのウケ以前に研究自体行き詰まる. 両者を往復することにより、基礎と応用を同時に改革する『モデル革命』を私の本分 としたい。
現在私は、基礎は計算量理論から応用は情報検索など に研究の手をうんと広げて、相互の適用が可能とすべく研究しています。 「モデル革命」というのはこのように、この両者のうち片方しか考慮していない モデルに固執せず、モデル構築の土俵を今一度作り直すために従来の土俵を掘り 返すことです。
西岡 竜大 モデルには、2通りのモデルがある。1つは専門家の中 にあるドメインモデル(専門家モデル)であり、 もう一つは研究者あるいは開発者が記述したド メインモデル(開発者モデル)である。
モデルを構築する場合、 専門家の中の概念的知識は整理されにくく、要求分析が 不十分であるので、開発者モデルが対象ドメイン世界のほんの一部分 しか表現できてないことがほとんどである。 従って、専門家自身がドメインモデルを記述し、それをシステムに 組み込める環境を構築する、もしくは、開発者自身が専門家になる必要がある。
堂前 宣夫 「世の中」そのものを機械にあった形で大雑把にモデル化する、それによ り、人間の専門家による知とは別の形の「機械の知」を追求していくことが、現実世 界の問題解決としても非常に価値が高いのではないか。 ビジネスの観点からは、たとえ、モデルが世の中のごく一部分だけを表すものであ ったとしても、モデルの振る舞いが現実の振る舞いと多少違っているものだとして も、十分意味がある。会社の生き残りは、ほんの少しの優位性で勝 負が決まるものなのだから。大雑把なモデル化で十分なのである。
高玉 圭樹 真の意味でさまざまな状況に適応するモデルのような枠組では主体が自分の 構築したモデルにしたがって予測,行動し、 さらに効果的に問題を解くために構築したモデルそのものを作り変える過程を 繰り返すことが主眼となる。つまり、自分のモデルを自己参照しながら、その モデルの妥当性を吟味することになる。次世代のモデルの一つとしてこのよう な自己言及的モデル(self-referential model)が必要である。
高間 康史 これからのAIが持つべきモデルの条件は、
システムが何を見、どう考え、 どう行動(出力)するかについて、ユーザが理解し、その振る舞いに対して疑念 を抱くことなく信頼できることであり、モデルの扱い、構築のプロセスも含めて 我々人間と整合するものでなくてはならない。

このパネルに対する質問、意見、当日パネラに質問してみたいことなどが ございましたら、以下までメールをお願いします。
ave@cslab.kecl.ntt.co.jp